甲状腺の病気

甲状腺とは

甲状腺軟骨先端である、のどぼとけのすぐ下にある甲状腺は、気管を取り囲むように存在しています。形状は羽を広げた蝶に似ていて、重さは10~20g程度です。

甲状腺が分泌する甲状腺ホルモンは、生命の維持に不可欠であり、全身の新陳代謝に関わっているため分泌の過剰や不足によってさまざまな症状を起こします。
女性の発症が多いため女性特有の病気と誤解されやすいのですが、男性も発症します。男性の発症が珍しいことから見逃されやすく、つらい症状に長く苦しんでいるケースもあります。適切な治療で症状を緩和できますので、疑わしい症状がある場合には早めにご相談ください。

甲状腺疾患とは

甲状腺の働きが異常になる疾患、甲状腺内の腫瘤によって症状を起こす疾患、そしてその両方が合併している疾患の3種類に大きく分けられます。

甲状腺ホルモンの分泌量異常による疾患

甲状腺ホルモンが過剰になる甲状腺機能亢進症、甲状腺ホルモンが不足する甲状腺機能低下症に分けられます。

甲状腺機能亢進症

バセドウ病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、プランマー病、SITSH(脳下垂体腫瘍・甲状腺ホルモン不応症)などがあります。甲状腺ホルモンは新陳代謝や全身の活動性をコントロールしているため、過剰になると、髪の毛の脱毛、目の腫れ、多汗、首の腫れ、動悸・頻脈、食欲亢進、吐き気・嘔吐・下痢、性欲低下・無月経、手のふるえ、イライラ、落ち着かない、高血糖、暑がりになった、コレステロールの低下などの症状を起こします。

甲状腺機能低下症

橋本病(慢性甲状腺炎)、粘液水腫、手術後甲状腺機能低下症、アイソトープ治療後、腎不全・透析などがあります。
主な症状には、薄毛・脱毛・顔の腫れ・むくみ、甲状腺の腫れ、乾燥肌・肌荒れ、食欲低下、便秘、不妊症、手足の冷え・腫れ、体重増加、記憶力低下、寒がりになった、疲労・倦怠感などがあります。

バセドウ病

抗TSH受容体抗体・TSH刺激抗体といった自己抗体によって甲状腺が過剰なホルモンを作り、甲状腺機能が亢進している状態です。
動悸・頻脈、多汗、手の震え、体重減少、食欲亢進、暑がりになるなどの症状を起こすことが多くなっています。また、過剰なホルモンが出続けるため身体が休まらず、イライラ・落ち着かない・疲労感などを起こすこともよくあります。
なお、特徴的な症状とされている眼球突出(バセドウ病眼症)は、あまり起こることがありません。また、眼球突出は自己免疫によって炎症や腫れなどを起こしている状態ですから、バセドウ病の治療では改善できません。目の異常がある場合には連携治療可能な眼科や放射線科をご紹介して治療を受けていただいています。
脈が速くなって心臓に負担がかかり、心房細動、心不全などを起こすリスクが高くなってしまいます。また脳卒中などの発症リスクも上昇します。常に激しい運動をしているような状態ですから、早期の受診と適切な治療が重要です。また、適切な治療を続けないと骨密度減少リスクも上昇してしまいます。

バセドウ病の治療

バセドウ病の治療薬物療法でコントロール可能なケースが多いですが、副作用の有無を慎重に見極めながら治療を行う必要があります。第一選択となるのはチアマゾール(MMI)で、血液検査の結果に合わせて処方を微調整します。蕁麻疹・肝障害・白血球減少(無顆粒球症)などを起こした場合には、プロピルチオウラシル(PTU)に変更して治療します。プロピルチオウラシル(PTU)にも同様の副作用や血管炎が生じることがありますので、慎重な調整が必要です。なお、妊娠している場合は、最初からプロピルチオウラシル(PTU)を処方します。原薬・離脱も可能ですが、再発率が高いため定期的に受診して検査を受けるようにしてください。
薬物療法では十分な効果を得られない場合には、放射性ヨード(アイソトープ)治療や手術を検討します。放射性ヨード(アイソトープ)治療は被ばくを考慮し、妊娠されている・授乳されている方や18歳未満の方には行っていません。なお、放射性ヨード(アイソトープ)治療や手術では治療後に甲状腺機能が低下するため、ホルモン補充療法が必要になります。手術はメリットとして効果の高さや再発しにくさがありますが、手術痕が首の目立つ部分に残る可能性があり、術後のホルモン補充療法を続ける必要があるというデメリットがあります。

無痛性甲状腺炎

甲状腺に一過性の炎症が起こる疾患で、病名の通り疼痛がないことが特徴になっています。甲状腺に蓄えられていた甲状腺ホルモンが漏れ出てしまうことで、軽い甲状腺機能亢進症のような症状を数週間ほど起こします。炎症が強い時期にはバセドウ病との鑑別が必要ですが、無痛性甲状腺炎は数ヶ月程度で改善します。動悸や頻脈などで心臓への負担が大きいといった場合には治療が必要ですが、症状が軽度の場合は経過観察します。出産後に発症するケースがよくあります。

亜急性甲状腺炎

甲状腺が一時的に破壊されて、発熱や痛みを生じます。痛みはのど周辺に感じることが多く、甲状腺は腫れて硬くなります。甲状腺ホルモンが過剰になって動悸など亢進症の症状も起こります。ほとんどの場合、数ヶ月で正常化するため経過観察を行いますが、痛みや発熱などの状態によっては解熱鎮痛薬やステロイドによる治療を行うこともあります。正常化した後に再発や甲状腺の機能低下を起こすことはほとんどありません。

橋本病(慢性甲状腺炎)

抗サイログロブリン抗体や抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体といった自己抗体が甲状腺を攻撃して破壊する疾患です。甲状腺が硬く腫れることもあります。
甲状腺ホルモンは新陳代謝や全身の活動性をコントロールしているため、慢性的な炎症によって甲状腺ホルモンの産生が減ると新陳代謝が低下します。それによって、倦怠感、無気力・意欲低下、体重増加、むくみ、記憶力低下、冷えなど心身にさまざまな症状を起こします。
代謝機能低下によって脂質異常症を発症しやすくなるため、適切な治療を受けないと動脈硬化を進行させて心筋梗塞や脳梗塞などの発症リスクを上昇させてしまいます。
ただし橋本病では、甲状腺機能が低下しないで正常に保たれるケースもあり、初期には一時的に機能亢進を起こすこともあります。また、徐々に低下することも多く、適切な治療を受けるうちにホルモンレベルが回復することもあります。ホルモンレベルの変化によって次々とさまざまな症状が生じることもあるため、注意が必要です。30~50歳代の女性の5~10%程度が罹患するとされているほどありふれた病気ですから、ちょっとした不調や体調の変化に気付いたらお気軽にご相談ください。

橋本病の治療

甲状腺ホルモンを補充する治療を長期間続ける必要があります。適切な補充によって、ほとんどの症状は解消できます。甲状腺ホルモンの分泌量が少ないと妊娠しにくくなるため、妊娠を希望されている場合や妊娠中には補充量の増加が必要です。

甲状腺内に腫瘤ができる病気

甲状腺内に腫瘤ができる病気甲状腺内にできる腫瘤は良性と悪性に分けられますが、どちらもほとんどの場合は寿命に影響しないとされています。良性の場合は経過観察のケースが多く、手術が必要になることは少ないとされています。また、悪性の場合もおとなしいタイプが多くなっています。超音波検査は当院で行っていますが、針細胞診が必要と判断された場合には、連携している高度医療機関をご紹介しています。
甲状腺良性腫瘍には、腺腫、嚢胞、腺腫様甲状腺腫などがあります。甲状腺悪性腫瘍には、乳頭がん・濾胞がん・髄様がん・未分化がんといった甲状腺がんと、悪性リンパ腫などがあります。

快適な日常生活を1日でも早く取り戻しましょう

甲状腺疾患は適切な治療で症状を改善できます。甲腺疾患による症状は単なる疲れや気持ちの問題と誤解されやすいものが多く、一般的な健康診断の検査では発見できないため、つらい症状で日常生活に支障を及ぼすことがよくあります。薬物療法・アイソトープ(放射性ヨウ素)治療・手術など、状態やライフスタイル、ライフステージなどに合わせた治療をしっかり行うことで、ほとんどの場合は快適な日常生活を取り戻すことができます。

つらい症状、気になる症状がある場合は、気軽にご相談ください。

こんな症状があったら、ご相談ください

機能亢進

  • 髪の毛の脱毛
  • 多汗
  • 吐き気・嘔吐・下痢
  • 手の震え
  • 目の腫れ
  • 首の腫れ
  • 甲状腺腫大
  • 動悸・頻脈
  • 食欲亢進
  • 食べても太らない・痩せていく
  • 性欲低下
  • 無月経
  • イライラ
  • 落ち着かない
  • 高血糖
  • 暑がりになった
  • コレステロール値低下

など

機能低下

  • 薄毛・脱毛
  • 顔の腫れ・むくみ
  • 乾燥肌・肌荒れ
  • 便秘
  • 手先の冷え・腫れ
  • 甲状腺の腫れ
  • 徐脈
  • 食欲低下
  • 不妊症
  • 生理が重い
  • 体重増加
  • 記憶力低下
  • 寒がりになった
  • 疲労感

など

当院で行っている検査

  • 血液検査(甲状腺ホルモン・各抗体価・腫瘍マーカーなど)
  • 超音波検査
  • 心電図

細胞診が必要な場合には連携している高度医療機関をご紹介しています。

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